(曹洞宗・梅岳寺副・末武正憲)
この度、出世することになったのでその話を致します。
もちろん会社で昇進したとかではなく、この場合は法階があがることを出世と言います。
曹洞宗の法階には、得度して僧になっただけの「上座」、一定の修行期間を修めた「座元」、師匠の法を嗣いで袈裟の色を改め、本山に拝登した「和尚」、最後に今は関係ないので説明は省きますが「大和尚」と4つありまして、この3つ目「和尚」になるために瑞世というものを行います。
瑞世とは具体的には、曹洞宗には本山が2つありますからそこで一夜住職を務めて、それぞれの御開山に挨拶をするというものです。
そうすれば今まで黒かったお袈裟を木襴色に改めることができ、事務手続きを経て法階が「和尚」になるというわけです。
一通り簡単に説明致しましたが、僧として一番大切なことは何でしょうか。
それは瑞世の前に行う、師匠の法を嗣ぐ嗣法という儀式です。
法というのは教えのことです。
逆にいえば然るべき弟子を作りその教えを脈々と後世に伝えてゆくことです。
教えを嗣ぐものがおらず、寺を護持するものがいなければ、やがて人の記憶からは薄れ、いずれは無かったことと同じになってしまうでしょう。
曹洞宗の御開山道元禅師が亡くなられた時代は十三世紀でその時は北陸の一宗派でした。
それが現在一万五千カ寺を擁するようになったのには、道元禅師から四代目の総持寺の御開山である瑩山禅師の働きが大きいと言われています。
この瑩山禅師のお弟子さん達が日本中に布教し、規模を徐々に拡大していったことが分かっています。
何百年も経た現在でも自分が誰の法を嗣いできたか、嗣法という儀式によって容易にわかります。
この法を嗣ぐという行為によって、どこぞの馬の骨の僧が、御開山からひいてはお釈迦様から伝わる正伝の仏法を嗣いだ由緒正しき僧になるというわけです。
お袈裟の色は単なる記号に過ぎませんが、そこに至るまでに歴代の祖師方の願いが込められていることに思いを馳せて頂ければ幸せと存じます。